はじめに

<当院はJ−LIT(日本脂質介入試験)に参加しました >

体の中のコレステロールの95%は、肝臓などで糖や脂肪酸から合成されています.飽和脂肪酸はLDL-コレステロール(悪玉)を増やし、不飽和脂肪酸はこれを減らすように働いています。

脂質代謝の改善とは、LDL-コレステロール(悪玉)を減らし、HDL-コレステロール(善玉)を増加させることです.

脂質の検査値が基準値を超えたらすぐ薬を服用すると言うわけではありません.動脈硬化を進める他の危険因子により治療の目標値が違います.まず生活習慣の改善でその目標値を達成できるように頑張ります.足りない分を薬剤の治療で補うことが原則です.

 

第一目標:理想体重にする

標準体重の範囲内でも、体重と総コレステロール、LDL-コレステロール(悪玉)、中性脂肪は正の相関、HDL-コレステロール(善玉)と逆相関があります。つまり、体重の減量により血清脂質のバランスを改善 (=善玉を増やし悪玉を減らすこと)できます。

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第二目標:飽和脂肪酸を減らす

飽和脂肪酸は LDL-コレステロール(悪玉)を増やすので、摂取量をひかえます。食物中の主たる飽和脂肪酸源には、バター、全乳を使った乳製品肉の脂身等があります。

注) 植物油脂を固形化する時などの水素化という処理で生じるトランス脂肪酸は、悪玉コレステロールを増やして心臓病のリスクを高める危険な脂肪酸であることがわかってきました.マーガリンショートニングを使った食品(クッキー揚げ物スナック菓子など)には注意が必要です.マーガリンを摂取する代わりに少量のバターの方が害が少ないとも考えられます.

 

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第三目標:不飽和脂肪酸を増やす

多価不飽和脂肪酸は、イワシ、サバ゙など魚の油(EPA,DHA)や、豆類、大豆油、綿実油等(リノール酸等)に多く含まれます。

一方、多価不飽和脂肪酸の過剰摂取は HDL-コレステロール(善玉)の低下、胆石の誘発を招くことがあります。

一価不飽和脂肪酸(オレイン酸: オリーブ油、菜種油)の効果は不明ですが エネルギー過剰にならない範囲で飽和脂肪酸の代わりに用いてもよいといわれています。

 

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第四目標:水溶性食物繊維の豊富な物を増やす

ペクチンを多く含む果物、オート麦、大麦、豆類、野菜類は、LDL-コレステロール(悪玉)を減らしますが、この効果を過大評価してはいけません。

 

 

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第五目標:コレステロ−ルの摂取量を減らす

コレステロール含有量の多い食品(卵類、甲殻類、肉の脂身等)は、飽和脂肪酸の含有量も多いので減らします。魚もコレステロール含有量が多いのですが、不飽和脂肪酸の量も多いのですすめられます。

 

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食生活の変更方法

 

排除 高脂肪食を排除するか避ける
変更 食物の調理法を変更して、飽和脂肪酸や変質した脂肪分を少なくする
代用 同じような食品でも、飽和脂肪酸や総脂肪量の少ない食品を選ぶ
代替 飽和脂肪酸の多い食品の代わりに、それに代わる食品を使う

参考文献:A.Chisholm, J.Mann ; Lipid Insigt(Merk), Vol:3, No.3から抜粋し、日本食に変更して使用しました.

 

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動脈硬化をすすめる危険因子

高脂血症は、動脈硬化を進展させて冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)や脳動脈疾患(脳梗塞、脳出血など)の原因となります.高 LDL-C(悪玉)血症以外にも、下表の 危険因子は動脈硬化症を進展させると考えられています.まず、生活習慣の改善により危険因子の数を減らすことが治療の第一歩となります.

高脂血症の治療目標値は、この主要危険因子の数によって違う値が設定されています日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」).

高LDL血症(140mg/dl以上)以外の主要危険因子

年  齢
(男性;45歳以上、女性55歳以上)
高 血 圧 症
(最高血圧;140mmHg以上 または 最低血圧;90mmHg以上)
糖 尿 病 または耐糖能異常
(境界型の糖負荷試験、かくれ糖尿病など)
喫  煙
冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)の家族歴
低HDLコレステロール血症
(40mg/dl未満) 

 

高リスク群(カテゴリーV)となる危険因子

糖 尿 病

脳梗塞の既往、閉塞性動脈硬化症


 冠動脈疾患のリスク予測  | <フラミンガム・リスク・チェック>

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治療の目標値

上の表で、LDL-C以外の主要危険因子を 幾つ持ち合わせているか、脳梗塞閉塞性動脈疾患心筋梗塞や狭心症の既往があるかどうかで、治療の目標値が違います. 基準値を超えたら直ちに薬物治療が必要というわけではありません.まず、生活習慣の改善を行 い高血圧症、糖尿病、肥満や飲酒、喫煙などを管理することは当然のことです.(家族性高コレステロール血症の管理はこの表に当てはまりません).

高LDL血症(140mg/dl以上)以外の
危険因子の数による、高脂血症治療の目標値(単位;mg/dl)
(脂質管理と同時に他の危険因子を是正する必要がある)

治療方針の原則

カテゴリー

脂質管理目標値

分類

LDL以外の主要危険因子数

LDL-C HDL-C TG
(中性脂肪)

一次予防

まず生活習慣の改善を行い、その後薬物治療の適応を考える
カテゴリーT
(低リスク群)
160未満 40以上 150未満
カテゴリーU
(中リスク群)
1〜2 140未満
カテゴリーV
(高リスク群)
3以上 120未満

二次予防

生活習慣の改善とともに薬物治療を考慮する
冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症)の既往がある人 100未満

日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」より)

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栄養評価 [I] 排除した方がよい食品の例

参考文献:A.Chisholm, J.Mann ; Lipid Insigt(Merk), Vol:3, No.3 より抜粋し、日本食に変更して使用

飽和脂肪酸やコレステロールの多い食品を摂取する頻度を減らします.
これらの食品は、食べないか2週に1度以下の摂取なら優秀です.1〜2週に1度位なら良好.
毎日又は週に数回摂取している食品は控えめにする 必要があります..

肉の脂身 ・ 霜降りの肉
ソ−セ−ジ・サラミ(脂身が約30%含まれます)
ベ−コン・バラ肉・レバ−
鶏肉の皮・もつ
ラード、ヘッド、それが入った製品(肉まん、ハンバーグなど)
外食の揚げ物(ラードなどで揚げてある食品)
甲殻類(えび、しゃこ)・貝類(かき、あわび)
うなぎ
魚のわた(しらうを、めざし、小魚の佃煮)  
魚の卵(いくら、たらこ、かずのこ)・うに
鶏卵や卵を使った食品(マヨネーズ、卵焼き)
卵を使った菓子(カステラ、ホットケ−キ)
クッキ−・チョコレ−ト・ココナッツ
バタ−・チ−ズ・生クリームを加えた料理(ケーキ、ピザ)
バタ−の入ったパン(ドーナツ、クロワッサン、パイ)
長時間使用した油で加熱調理した食品( フライドチキン、フライドポテトなど)
ポテト・チップス、スナック菓子
マーガリン、ファットスプレッド(ネオソフト、コーンソフト、バター風味など)
マーガリン、ファットスプレッドの入った製品(クロワッサン、シュガーロールなどの菓子パン類)
コーヒー用のクリーム(スジャータなど)
ショートニングやそれの入った製品(クッキー、スポンジケーキなど)

植物油脂を固形化する時などの水素化という処理で生じるトランス脂肪酸 は、悪玉コレステロールを増やして心臓病のリスクを高める危険な脂肪酸であることがわかってきました.マーガリンやショートニングを使った食品(ケーキ、ドーナツ、クッキー、揚げ物スナック菓子など)で、「Trans fat Free]など特別な記載がない製品には特に注意が必要です.

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栄養評価 [II-1] 摂取がすすめられる食品の例

どの程度まで適切な食物が選択されているかの評価です.
食べないか1〜2週に1度の摂取ならもう少し摂取頻度を増や すことがすすめられます.

野菜としての豆類(エンドウ、とうもろこし)
豆腐・納豆・おから等の豆類(油で加工しない物)
生野菜
キノコ類(シイタケ、キクラゲ)
海草類(昆布、海苔、ワカメ、ひじき)
その他の食物繊維の豊富な食品(こんにゃく)
魚(わたを除く)・水煮の魚缶詰
赤身の肉・鶏肉(皮なし)

 

 

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栄養評価 [II-2]コレステロールだけが高い人の場合は摂取してもよいが、取りすぎるとカロリー過多になるので、中性脂肪も高い人は控えめにした方がよい食品の例
生の果物(バナナ、リンゴ、キウイ など)
米・麺類・麦製品(そば、オートミール)
ジャガイモ

 

 

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栄養評価[III] 代用や代替がすすめられる食品の例

左の▼印は右の△印の食品に代替・代用したほうが好ましい例

▼牛乳(低脂肪でない全乳 △無脂肪,低脂肪牛乳,スキムミルク など
骨粗鬆症の予防として牛乳を飲みすぎている方は、減量するなり無脂肪牛乳に変更するだけで脂質代謝が改善することもあります.
▼コーヒー・クリーム(植物性) △無脂肪、低脂肪の牛乳、スキムミルクなど
▼ラード・ヘッド(室温で固まっ ている料理用の油) △サラダオイル(サフラワー油,キャノーラ油 などで、室温で固まっていない油)
▼霜降り肉、ロース肉など △赤身の肉、フィレ肉など
▼鳥のもも肉、皮など △鳥のささみ
▼小魚(わたの部分) △魚の切り身、水煮の魚缶詰
▼マーガリン、ファットスプレッド(ネオソフト、コーンソフト、バター風味など) △少量のバター

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